前回、松原仁先生が「海底ケーブルの防護に関する質問主意書」を政府に提出したことを書きました。
そうした折、またもや中国の関与が疑われる海底ケーブル切断事件が起きました。2月25日、台湾南部の台南沖で海底通信ケーブルが切られ、台湾の海巡署(海上保安庁)は、同海域で錨を下ろして停泊していたトーゴ船籍の貨物船が関与した疑いがあるとして拿捕しました。貨物船は中国と資本関係があり、乗組員全員が中国人でした。今回台湾当局は、拿捕だけでなく、中国人船員を拘束して取り調べを行っています。
これに反発したのか、中国軍は翌2月26日、台湾南部沖公海で予告なしに軍事演習エリアを設定して「射撃訓練を実施する」と宣言しました。台湾当局はこの挑発行為を厳しく非難し、緊張が高まっています。
さて、松原先生の質問主意書ですが、一定の成果をあげました。前回書いたように、中国国家海洋局(当時)の工学者チームは2009年、「海洋曳航型切断装置」を図面付きで特許申請し、2020年には浙江省の麗水学院(大学)の工学者チームが改良型の「牽引式海底ケーブル切断装置」の特許を申請していました。麗水学院の申請には、海底ケーブル切断装置を海底に下ろして船で引きずる図まで添付されています。国家テロしか使用目的が考えられない装置を、堂々と特許申請していたのです。
特許申請について「政府の知るところを明らかにされたい」と求めた松原先生の質問に対して、政府は「お尋ねの『海底ケーブル切断装置』に関する公開情報は承知している」と答弁しました。国会議員が出した質問主意書に対する政府答弁書は、閣議決定されます。昔は閣僚全員が、答弁書に花押という日本独特のサインをしていて、松原先生も大臣時代は一つ一つの答弁書に署名したそうです。今回日本政府のもっとも高いレベルで、中国の国家テロ用装置について「承知している」との答弁が決定されたことは、中国に対する「オイ、分かっているんだぞ! いい気になるなよ!」という有効な警告になりました。
しかし「承知している」に続いて、「それ以上の詳細については、事柄の性質上、お答えすることは差し控えたい」と答弁したことは残念です。この答え方は政府答弁の定番なのですが、事の重大性を考えたら例外的な答弁が必要です。日本の海底通信ケーブル全部を一斉に切断されたら、インターネットも国際電話もできなくなって経済は大打撃を受けます。政府答弁書の一番にある通り、「情報通信ネットワークに障害が発生した場合、国民生活や経済活動に甚大な影響を与えるおそれがある」のです。政府の断固たる姿勢を示すためにも、「深く懸念しており、同盟国及び同志国と共に情報収集につとめているところである」といったもう一押しの答弁が欲しかったです。
他の答弁もイマイチでした。質問の四番で松原先生が、海底通信ケーブル損傷の最高刑が懲役5年なのは軽すぎると訴えたの対して、政府は、「刑罰法規全体における均衡等を考慮して適切に定められているものと認識している」と答弁しました。法律家の議論ではそうなのかも知れませんが、一般常識でいえばムチャクチャです。懲役5年の最高刑は、有印私文書偽造程度です。日本経済に壊滅的打撃を与え、場合によっては世界恐慌の引き金をも引きかねない海底通信ケーブル一斉切断テロが、有印私文書偽造程度の罪でしょうか? 5年間クサい飯を食えば償える程度のことでしょうか? あり得ないと思います。
今は裁判員裁判で一般国民も量刑を判断する時代です。一般常識に合わせて、海底ケーブル切断の最高刑を無期懲役に引き上げるべきと思います。中国に「絶対に許さないからな!」というメッセージを送る意味でも、量刑引き上げは必要です。
今は裁判員裁判で一般国民も量刑を判断する時代です。一般常識に合わせて、海底ケーブル切断の最高刑を無期懲役に引き上げるべきと思います。中国に「絶対に許さないからな!」というメッセージを送る意味でも、量刑引き上げは必要です。
質問の中でももっとも重要だったのは、七番の「海底ケーブル破壊工作に関するG7首脳声明を出して、徹底制裁で警告せよ!」の提言です。政府答弁は、「一般に、令和六年六月十四日のG7プーリア首脳コミュニケにおいて『安全で強靱な海底ケーブルの接続に関する我々の協力を前進させる』とされている等、G7において海底ケーブルの安全性や強靱性の確保に係る連携の重要性を確認しているところである」でした。
すでにG7で重要性が確認されている以上、中国による国家テロが確認されたならば、さらに強い内容の声明が期待できます。台湾当局による捜査を見守りたいと思います。
海底ケーブル切断は、いま国際社会のホットトピックの一つになりました。引き続き注視いただけると幸いです。

世の中の事ある時にあひぬとも
おのがつとめむことな忘れそ
(明治天皇御製)
おのがつとめむことな忘れそ
(明治天皇御製)