インターネット、国際電話等の日本の国際通信は、現在99%が海底ケーブル経由です。もしも全ての海底ケーブルを一斉に切られたら、日本は情報の孤島となります。航空便の手紙や衛星しか通信手段がなくなり、日本経済が大打撃を蒙ることは間違いありません。
相当疑わしい事件は、毎月のように起きています。昨年11月にバルト海のスウェーデン領海で、中国の貨物船「伊鵬3」が航行した後、複数の海底通信ケーブルが損傷しました。1本はスウェーデンとリトアニアを結ぶケーブルで、もう一本はフィンランドとドイツを結ぶものでした。その後の捜査で「伊鵬3」は錨を海底まで下ろして、160キロ以上にわたって引きずっていたことが明らかになりました。ドイツのボリス・ピストリウス国防相は「破壊工作と想定せざるを得ない」と述べましたが、当然ではないでしょうか?
昨年12月には同じくバルト海で、ロシア産原油を密輸していたタンカーが11トンもの錨を海底に下ろして100キロも引きずった後、フィンランドとエストニアを結ぶ海底通信ケーブルや海底電力ケーブルの損傷が確認されました。むろん、11トンもの錨を「うっかり100キロも引きずっちゃった。ゴメン、わざとじゃないから」ということはあり得ません。車でいえば、「サイドブレーキを引いたまま東京から長野まで高速道路を走ったけど、全然気づかなかったよ」と言うのと同じくらい見え透いたウソです。これは破壊工作、つまりテロとみていいでしょう。
1月に入ると、台湾北部海域で、香港籍企業が所有する貨物船(乗組員は7人全員中国人)が航行したあと、台湾の海底通信ケーブルが損傷しました。台湾の海上保安庁にあたる海巡署は、中国船が関与した疑いが濃厚として、次の寄港先である韓国に捜査協力を要請しました。
そうしたなか、1月10日にニューズウィーク英語版が仰天のスクープ記事を出しました。なんと中国の国家機関が、錨の形をした海底ケーブル切断装置の特許申請をしていたのです。中国国家海洋局(当時)の工学者チームは2009年、「海洋曳航型切断装置」を図面付きで特許申請し、2020年には浙江省の麗水学院(大学)の工学者チームが改良型の「牽引式海底ケーブル切断装置」の特許を申請していました。麗水学院の申請には、海底ケーブル切断装置を海底に下ろして船で引きずる図まで添付されています。こんなテロ以外に使用目的がない装置を特許申請するって、どういう神経をしているのでしょうか?
麗水学院の特許申請に添付された図
松原先生は質問主意書で、上記特許について「政府の知るところを明らかにされたい」と求めました。むろん日本の当局は、独自調査や同盟国・同志国との情報交換によって、海底ケーブル切断装置の詳細を把握しているはずです。政府は可能な限りの情報を明らかにし、報道を引き出し、中国が破壊工作を実行しづらくなるよう圧力をかけるべきです。
そのうえで松原先生は、3つの具体策を提言しました:
1 海底通信ケーブル損傷の最高刑が懲役5年なのは軽すぎ。引き上げよ!
2 日中首脳会談・外相会談で中国側に問題を提起せよ!
3 海底ケーブル破壊工作に関するG7首脳声明を出して、徹底制裁で警告せよ!
特に3は必ずやるべきです。トランプ政権やEU(スウェーデン、ドイツ、フィンランド、リトアニア、エストニアを含む)が乗ってくることは間違いなく、台湾やイスラエルといった被害国も強く賛成するはずです。文句をいうのは犯人の国だけです。
日本外務省は国際社会で手柄を立てるチャンスです。同盟国・同志国の信頼も格段に厚くなります。松原先生の提言を今すぐ実行に移すべきです。

けさよりは春たつけふの天つ風
よもの梢に吹くものどけき
(明治天皇御製)