北朝鮮が韓国からのビラ風船に猛反発していて、局地的武力衝突に発展する可能性すら出てきました。その原因の一つは、金正恩の母方の祖父・高京澤(コ・ギョンテク)が日本軍協力者だったという、北朝鮮社会では決定的なスキャンダルが拡散されていることにあると思われます。12年前にも書きましたが、あらためて解説したいと思います。

北朝鮮は、3代前まで家系を調査して決まる「出身成分」による徹底した身分制社会です。「日本軍協力者の血統」は反逆者扱いで、3代にわたって滅ぼす対象とされています。

金正恩外祖父の日本軍協力が北朝鮮当局にとって極めてセンシティブであることは、私が2012年に防衛研究所で高京澤の勤務先「廣田縫工所」が大日本帝国陸軍管理工場であった証拠書類を発見し、週刊新潮、英紙テレグラフ、米政府系ラジオ・フリー・アジア(RFA)等が一斉に報じたとき、北が完全に沈黙を守ったことでお分かりいただけると思います。特にテレグラフの見出しは「北朝鮮指導者金正恩の『反逆者』の祖父(The 'traitor' grandfather of North Korea's leader Kim Jung-un)」であり、通常であればテロの威嚇を含めた猛抗議の対象です。

週刊新潮2012年5月17日号の「金王朝を揺るがす血脈のスキャンダル 金正恩祖父は『日本軍協力者』だった」という見出しも十分刺激的でしたが、これにも完全沈黙。また、韓国の人気報道番組に出演して証拠書類を示したときも、北朝鮮は一切反論してきませんでした。

証拠書類の一部は下記RFA記事に掲載されています。

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★動かぬ証拠

金正恩の母・高英姫については優れた先行研究があり、父親が済州島出身で1913年生まれの高京澤で、1960年代に北朝鮮に渡ったことが明らかになっていました。RFAは済州島で系図まで発見して2012年に報じています。下記記事で系図の画像を見ることができます。

また、朝鮮総連のプロパガンダ雑誌『朝鮮画報』1973年3月号の「幸せあふれるわたしの家庭」に、帰国した高京澤一家が紹介されていることも分かっていました。これが突破口になりました。

記事の中で高京澤は、1929年に大阪に来て「広田裁縫所」に勤めていたと述べています。この工場を調べたところ、正式名称は「廣田縫工所」であることが国会図書館所蔵文書等で明らかになりました。縫工所の読みは「ほうこうじょ」で、まるで「奉公所」みたいなことから、プライドの高い職工が「丁稚奉公ちゃうで!」と嫌がり「裁縫所」の通称をつけたのかも知れません。

そこで、防衛省が保管する旧軍文書を探したところ、廣田縫工所が「陸軍管理工場」だったことを示す秘密書類が複数ありました。工場は陸軍被服本廠大阪支廠の管理下にあり、軍服などを作っていました。文書に「工場全部」が陸軍管理とあり、事実上陸軍の一部でした。

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むろん、高京澤が陸軍管理工場で働いていたことは、なんら非難に値しません。私の祖父の軍服を一生懸命縫ってくれたと思うと、親しみさえ感じます。そうしたことで人を攻撃するのは、本来もっとも避けるべき行為です。
しかし、金正恩は日本人拉致監禁を含む「人道に対する罪」を現に行っており、また、我が国を核兵器で脅迫しています。あらゆる手段を尽くして止める必要があります。祖父が日本軍協力者であった事実は有効な圧力となるので、活用していくべきと思います。



Emperor Meiji uniform
たへがたき暑さにつけていたでおふ
人のうへこそ思ひやらるれ
(明治天皇御製・対露戦争で負傷した将兵に思いを寄せられて)