7月3日に埼玉県議会の自民党議員団に招かれ、約30人の県議の先生方を前に、拉致問題についてプレゼンする機会をいただきました。いま鈴木正人県議、柿沼貴志県議、保谷武県議らを中心とする拉致問題プロジェクトチームが、解決のために何ができるか、じっくり時間をかけて熱い議論を交わしています。心温まる思いでした。

私のほうでは、埼玉県上福岡市(現・ふじみ野市)在住の子供2人が北朝鮮に拉致され母親が殺害された「渡辺秀子さん2児拉致事件」について説明しました。この事件では、朝鮮総連最高幹部3人が警視庁から書面で出頭を要請されたのに、拒否してそのままになっています。絶対に許されないことです。このまま終わらせるわけにはいきません。


話は1967年に始まります。朝鮮総連に所属する高大基(コデギ)工作員が、北海道のスナックで一般人の日本人女性・渡辺秀子さんと知り合い、二人は結婚しました。高工作員は北海道の自衛隊に対するスパイ活動を行っていたようです。同年に長女の高敬美さん、4年後には長男の高剛さんが生まれ、一家は埼玉県に転居します。当時の国籍法の定めで、子供は朝鮮籍になっています。

1971年になると、朝鮮総連の金炳植副議長が東京都品川区に工作拠点ユニバース・トレイディングを設立し、高工作員が責任者になります。同社は一般企業を装うため手の込んだ偽装工作をやっていて、金副議長の恩師である日本人S氏を名目上の社長にし、事情を知らない日本人を多数雇ってトランジスターラジオ等の輸出業務も行っていました。所属する工作員は10人程度で、日本人社員はその正体を知らされていません。

翌1972年に金副議長が失脚し、本国に召還されて二度と日本に来れなくなりました。すると高工作員にも召喚命令が出たようで、1973年に渡辺秀子さんに1200万円の小切手を渡して、「これで帯広に家を買って暮らしてほしい」と言い残して行方不明になります。
悩んだ秀子さんは帯広市の神社で占ってもらいます。すると「どこまでもついていきなさい」という結果が出たので、ユニバース社周辺で夫の行方を尋ね回ります。これに焦った工作員たちが本国に報告すると、母子を北朝鮮に連れてこいと命令されたので、目黒区のマンションに誘い込んで監禁しました。

「なぜそんなことが分かるのか?」ということですが、実は1979年に内部告発があったのと、88年によど号事件犯人が日本潜伏中に逮捕された事件にユニバース社関係者が関わっていたため、警察が徹底的に調べていて、複数の工作員から詳細な供述を得ているのです。

秀子さん親子が監禁されたとき、ユニバース社は洪寿恵(ホンスヘ・1977年に不正に帰化し木下陽子)という工作員が責任者になっていました。この女は特に凶悪で、独断で秀子さん殺害を決め、他の工作員とともに首を絞めるなどして殺し、遺体をマンション地下の駐車場から車で運んで東北地方で遺棄しました。洪が「橋の上から投げ捨てた」と語っていたのを聞いたという証言もあります。そして母親を殺された子供2人は、1974年6月に工作船で北朝鮮に連れ去られました。

honsuhewanted

殺害されるとき、秀子さんはどれほど子供が心配だったろうと思わずにはいられません。拉致された当時7歳と3歳です。一人で生きていけるような年齢ではありません。頼みの父親は、すでに行方不明になっています。そして、子供たちは凶悪な工作員たちの手の中にあるのです。気も狂わんばかりだったのではないでしょうか?

その後1979年に警察が捜査をはじめると、洪寿恵は犯行に関わった夫とともに出国して逃亡しました。北朝鮮にいることが確認されています。


2007年4月になるとやっと、安倍総理が「私の内閣において拉致問題については徹底的に捜査する。これは基本的な方針だ」と指示し、強制捜査が行われます。警察庁は子供二人の拉致を認定し、洪寿恵を国際手配しました。さらに、警視庁は朝鮮総連議長ら最高幹部3人に、事情聴取のため書面で出頭を求めました。そのうち二人は、現在の議長と副議長です。読売新聞は4月25日夕刊の一面トップで「総連議長ら聴取へ 関連4か所捜索」と報じ、翌日の社説で「朝鮮総連幹部の聴取は必要だ」と主張しました。

yomiuri200704souren

ところが朝鮮総連最高幹部は、事情聴取を拒否しました。読売新聞だけでなく、あの東京新聞までもが、社説で「積極的に捜査に協力した方がいい。でないと疑いは深まる」と主張したにも関わらず、拒絶したのです。そして信じられないような話ですが、通ってしまっています。

2人の子供が組織的に拉致され、母親は殺害されたのです。断られて済む話でしょうか? 被害者の人権はどうなるのでしょうか? よく「ゴメンで済むなら警察いらない」といいますが、「イヤだで済んだから法治国家じゃない」の状態なのです。

警察は何度でも何度でも、朝鮮総連の議長と副議長に事情聴取に応じよと求め続け、その事実をマスコミに発表すべきです。不当に拒否しているという事実を、全国民が知るべきです。そして万が一これ以上強制捜査できないのなら、朝鮮総連に破産申立てをするなどの方法で、政府は法治国家としての面目を保つべきです。

とにかく絶対に許せない。その一言に尽きます。



Emperor Meiji uniform
雨すぎてみどりにはれしそらみれば
日かげは夏になりにけるかな
(明治天皇御製)