政府は、松原仁先生に対する答弁書で、2021年4月から先月まで朝鮮総連から一円たりとも回収できておらず(令和3年度については昨年答弁)、その間に遅延損害金が約73億円発生したと明らかにしました。また、朝鮮総連への破産申立てについて、一般論と断りながらも「できる」と再度答弁しました。
10月31日に閣議決定された答弁書を衆議院HPでご覧いただくことができます。
先刻ご存じと思いますが再確認しますと、朝鮮総連は傘下の朝銀信用組合を破綻させ、1兆3453億円もの公的資金を日本に負担させました。その相当部分が北朝鮮に送金されたことは、安倍総理が衆議院予算委員会で答弁した通りです。国民一人あたり1万円以上であり、全額について朝鮮総連は責任を負っています。しかし実態解明は困難を極めたため、朝鮮総連側の代理人である元日弁連会長の土屋公献弁護士を交渉窓口として調査が行われ、朝鮮総連は元本合計627億7708万円について真の債務者であると認めました。ところが弁済について誠意のかけらも見せなかったため、整理回収機構は2005年に訴訟を提起し、全額を払えとの判決が確定しました。その後も全く誠意を見せなかったため、2017年には遅延損害金を含めて約910億円の訴えを提起し、やはり全額の支払いを命じる判決が確定しました。
私が5年前に調査したとき、整理回収機構の朝鮮総連担当者は約40人でした。担当者の給与が一般的な水準であれば、人件費だけで年間3億数千万円が飛んでいたことになります。さらに出張費などを加えたら、年間4億円以上です。
もしも日本人の組織が朝鮮総連と同じことを行ったら、とうの昔に破産申立てをされていたことは間違いありません。ある種の逆差別だと思います。
もっとも重大な問題は、朝鮮総連に破産申立てを"していない"ことが北朝鮮への誤ったメッセージとなり、拉致被害者救出を阻害していることです。北朝鮮からみた日本は、「放っておけば何でも忘れてくれる国」です。ならば拉致被害者を解放することは、北にとって非合理的な行動となってしまいます。裁判所の判決同様、無視していればいいと彼らが考えるのは当然です。北が関心を持つ分野で「日本は変わった」と見せない限り、拉致被害者は帰国できません。


韓国の情報機関、国家情報院は11月1日、北朝鮮がロシアに8月上旬以降、弾薬100万発以上を提供したとの分析を韓国国会の情報委員会で報告しました。日本の一部関係者が主張していた「人道支援をすれば拉致被害者を返してもらえる」との希望的観測は、完全に誤りであることが明らかになりました。
拉致被害者を救出するには圧力しかありません。とりわけ、朝鮮総連を破産させたうえで「返すなら破産手続を中止してもいい」と交渉するやり方が有効です。安倍総理の2017年国連総会演説を引用するなら、「必要なのは、対話ではない。圧力なのです」
政府は一刻も早く朝鮮総連に破産申立てをして、北朝鮮を実質的な交渉の場に引きずり出すべきです。

もみぢ葉はまだそめやらぬたかねより
しかのねおろす夜はの秋風
(明治天皇御製)