前回、政府拉致問題対策本部(拉致対)が行った概算要求の問題点について書きました。その後調べていくと、拉致対が不必要な予算要求を行った背景に、外務省外郭団体への税務調査があるのでは、という気がしてきました。

拉致対は、拉致問題に特化した内閣官房の一本部に過ぎません。外務省と重複して北朝鮮情勢全般の高度な分析を行う必要はないのに、下記予算を新規に要求しています。

〇北朝鮮衛星テレビのモニタリング強化 53 百万円 【新規】
※北朝鮮国営メディアである朝鮮中央テレビの放映内容のモニタリング体制を強化する。


5300万円は、外務省外郭団体の一般財団法人ラヂオプレスに、形式的な競争入札を行ったうえで支払う予定と思われます。ラヂオプレスは、昭和21年に外務省ラジオ室の後身として設立された機関で、主に旧共産圏の放送を傍受して分析するオープン・ソース・インテリジェンスを行っています。下記は本年4月3日付で外務省と契約した業務です。

・「国際ニュースモニタリングサービス」業務委嘱  契約金額 2億5913万円
・「北朝鮮、中国及びロシアを主とするモニタリング情報の提供と配信等」業務委嘱  契約金額 1億5827万円
・「北朝鮮情勢に関する調査分析報告書等の作成、納入」業務委嘱  契約金額 1147万円
・「国際情勢調査分析ユニット」業務委嘱  契約金額 407万円
・「サハリン特報等資料作成」業務委嘱  契約金額 506万円


ラヂオプレスの令和4年度事業報告をみると、驚くべきことが書かれています。

「当法人はこれまで法人税は課されてこなかったが、令和4年12月に突如法人税についての税務調査が入り、法人税を支払うようにとの指摘を受けた。このことに対する対応は、理事会で検討の上、令和5年6月の評議員会に報告の上、行うこととしたい」 (Ⅱ.経営状況の概要)

つまり、ラヂオプレスは、今でも実態は外務省の一部署であり、財団法人は「カバー」ということなのでしょう。

ならば、審議官クラスを含め外務省から多数出向している拉致対に、同じ情報を重複して売って5300万円も儲けるのは、一般国民からみればタカリ以外の何ものでもありません。しかも、法人税を払う必要が出たあと拉致対に唐突に予算要求させるのは、穴埋めを意図している印象を受けます。

そもそも、法律に則って法人税を払えと指摘を受けて「対応は理事会で検討」と平然と書くコンプライアンス感覚は、民間人からすると唖然です。法的義務があるのに、何を検討するのでしょう? 外務省の政治力で国税局を屈服させる選択肢でもあるのでしょうか?

ちなみに拉致対は、過去にも不正な会計操作を報じられたことがあります。いささか旧聞に属しますが、『スパ』2012年2/7・14合併号に「[拉致対策本部]内紛劇を暴く! 200万円会計操作、利権化した民間委託etc. 遅々として進まない拉致問題対策の病巣を関係者が激白」という記事が出ました。

ラヂオプレスへの5300万円支払いは、まだ認められたわけではありません。実際に執行されると、北朝鮮や追随勢力に攻撃材料を与えるばかりか、拉致被害者救出運動への国民の信頼を損なう恐れがありますので、却下されてほしいと願っています。

外務省


★ 拉致対はなぜ1兆7千億円の投資を無駄にするのか?

問題ある予算概算要求ですが、次の項目もあります。

〇人工衛星画像を活用した情報収集・分析体制の強化 35 百万円 【新規】
※人工衛星画像を活用した街並みや建物等の立体画像やデジタル白地図を購入する


民間業者から3500万円で画像を購入するという意味だと思いますが、無駄遣いです。政府は、性能の良い光学衛星3機を含む情報収集衛星を9機運用しています。内閣衛星情報センターの画像は基本的に特定秘密ですが、総理大臣を本部長とする拉致対が使えないはずはありません。情報収集衛星関連費として1998年度以降、2022年度までに計1兆6861億円の血税が投じられています。なぜ活用しないのか理解できません。

そもそも、拉致被害者が居住していると思われる北朝鮮の特定地域の分析は、救出に直接寄与するものではありません。仮に生きている状況証拠を得たとしても、北朝鮮に「だからどうした」と言われるだけです。


拉致問題解決のカギは、交渉カード作りです。「拉致被害者を返すなら止めてやる」と言える制裁措置をどれだけ講じるかで、祖国に帰還できる日本人の数が決まります。朝鮮総連破産、金正恩への独自制裁、高麗航空制裁、朝鮮総連中央委員・専従職員への再入国禁止措置(松原仁先生だけでなく、日本保守党も第一回声明で正式要請)、朝鮮総連関係者銀行取引停止の行政指導等々、打つ手は多数残されています。

逆に今のままなら、永久に膠着状態のままです。何十年も塗炭の苦しみを味わった同胞を、不作為のため北朝鮮で死なせることになります。

先日の露朝首脳会談で、「人道支援をすれば拉致被害者を返してもらえる」という政府が実質的に採用していた前提は、全くの虚偽だったことが明らかになりました。北朝鮮の時間稼ぎを許し、拉致被害者と家族の苦しみを増しただけでした。また不可解な宥和メッセージを発することで、我が国の国際的信用も傷つけました。
政策転換が求められています。




Emperor Meiji uniform
世の中の人におくれをとりぬべし
すすまむ時にすすまざりせば
(明治天皇御製・明治40年)