加藤健の「天を回せ! ロビー活動で挑む」

一般国民が国際政治を動かすための具体的方法論

イランのイスラム過激派政権こそ暴力と死の根源 

中東情勢が緊迫するなか、一部マスコミの偏向報道のせいで、イスラエルが諸悪の根源であるとの誤った認識が広がっています。実際には全く違います。中東で圧倒的マイノリティのイスラエルが、アラブ諸国との和平実現のために努力を積み重ねてきたのを、イランのイスラム過激派政権がテロによって妨害してきたのが全体像です。ペルシア人・シーア派の盟主のイランが、アラブ人・スンニ派の盟主を自認するサウジアラビアによるイスラエルとの国交正常化を、実現まであと少しのところで破壊しました。

むろん推測ではありません。イランによるテロ組織ハマスへの支援は公然たるものです。ハマスのイラン事務所代表が読売新聞の取材に対して、「政治、外交、財政、軍事の面で支援を受けている」と堂々と語っているほどです。イランとテロ組織ヒズボラの関係も、国際ニュースをみている方ならご存じの通りです。
https://www.yomiuri.co.jp/world/20231113-OYT1T50172/

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ユダヤ人がエルサレムの「嘆きの壁」を1900年かけて取り戻した瞬間
ここはユダヤ人の土地である

中東和平にむけた流れをみていきたいと思います。圧倒的多数の敵に囲まれたイスラエルは、たいへんな苦労を重ねながら、1979年にエジプトとの間で、また1994年にはヨルダンとの間で平和条約を締結して、国交を正常化しました。2020年になるとイスラエルは、アラブ首長国連邦、バーレーン、スーダン、モロッコとの間で国交正常化に合意しました(広義のアブラハム合意)。さらに、広く報道されているところによれば昨年、イスラエルとサウジアラビアとの間で国交正常化に向けた交渉が進んでいました。

イスラエルのビンヤミン・ネタニヤフ首相は、昨年9月22日に国連総会で行った一般討論演説で、サウジアラビアとの歴史的な和平実現が国際社会全体に平和の恩恵をもたらすことを情熱的に語った上で、
「トランプ大統領のリーダーシップでアブラハム合意を実現できたのと同じように、バイデン大統領のリーダーシップでサウジアラビアと平和を実現できると信じている。ムハンマド・ビン・サルマン皇太子のリーダーシップと力を合わせることで、全ての人々にとって大いなる恩恵となる未来を作り上げることができる」
と述べました。演説の原稿はイスラエル首相府HPに出ています。

演説の動画はYouTubeでご覧いただけます。ネタニヤフ首相は、特殊部隊兵士だった若き日に戦友が腕のなかで亡くなったことや、エンテベ空港奇襲作戦で戦死した兄のことを語って、平和への渇望を訴えています。国家の安全のために生涯を捧げた人物の、切々たる思いが伝わってきます。




日本にとって重要なのは、「それが日本にとって得か損か、価値観に合致するか否か」ということです。中東和平を支持すべきか、それともイランが仕掛けるテロを支持すべきか、どちらでしょうか?

答えは明白だと思います。政府が繰り返し述べているとおり、「原油の約九割を中東地域から輸入している我が国にとって、中東地域の平和と安定は極めて重要」です。和平は日本が拠って立つ価値観にも合致します。日本人が支持すべきは、アラブ諸国とイスラエルがアメリカの仲介のもと目指す平和の実現であり、イランがもたらしている暴力や死ではありません。

中東関連のニュースを見ていると、プロパガンダばかりです。枝葉の部分ばかりが煽情的に取り上げられ、全体像が見えてきません。アラブ人のサウジアラビアとペルシア人のイランが激しく対立しているという、もっとも基本的な構造さえ見過ごされがちです。北朝鮮の準同盟国でテロ支援国家のイランが、マトモな国だと誤解している人さえいます。今こそ大局をしっかり把握すべきと思います。



Emperor Meiji uniform
はれまなき雨につけても思ふかな
ことしの秋のみのりいかにと
(明治天皇御製)


金正恩の血の秘密が猛反発の原因か?

北朝鮮が韓国からのビラ風船に猛反発していて、局地的武力衝突に発展する可能性すら出てきました。その原因の一つは、金正恩の母方の祖父・高京澤(コ・ギョンテク)が日本軍協力者だったという、北朝鮮社会では決定的なスキャンダルが拡散されていることにあると思われます。12年前にも書きましたが、あらためて解説したいと思います。

北朝鮮は、3代前まで家系を調査して決まる「出身成分」による徹底した身分制社会です。「日本軍協力者の血統」は反逆者扱いで、3代にわたって滅ぼす対象とされています。

金正恩外祖父の日本軍協力が北朝鮮当局にとって極めてセンシティブであることは、私が2012年に防衛研究所で高京澤の勤務先「廣田縫工所」が大日本帝国陸軍管理工場であった証拠書類を発見し、週刊新潮、英紙テレグラフ、米政府系ラジオ・フリー・アジア(RFA)等が一斉に報じたとき、北が完全に沈黙を守ったことでお分かりいただけると思います。特にテレグラフの見出しは「北朝鮮指導者金正恩の『反逆者』の祖父(The 'traitor' grandfather of North Korea's leader Kim Jung-un)」であり、通常であればテロの威嚇を含めた猛抗議の対象です。

週刊新潮2012年5月17日号の「金王朝を揺るがす血脈のスキャンダル 金正恩祖父は『日本軍協力者』だった」という見出しも十分刺激的でしたが、これにも完全沈黙。また、韓国の人気報道番組に出演して証拠書類を示したときも、北朝鮮は一切反論してきませんでした。

証拠書類の一部は下記RFA記事に掲載されています。

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★動かぬ証拠

金正恩の母・高英姫については優れた先行研究があり、父親が済州島出身で1913年生まれの高京澤で、1960年代に北朝鮮に渡ったことが明らかになっていました。RFAは済州島で系図まで発見して2012年に報じています。下記記事で系図の画像を見ることができます。

また、朝鮮総連のプロパガンダ雑誌『朝鮮画報』1973年3月号の「幸せあふれるわたしの家庭」に、帰国した高京澤一家が紹介されていることも分かっていました。これが突破口になりました。

記事の中で高京澤は、1929年に大阪に来て「広田裁縫所」に勤めていたと述べています。この工場を調べたところ、正式名称は「廣田縫工所」であることが国会図書館所蔵文書等で明らかになりました。縫工所の読みは「ほうこうじょ」で、まるで「奉公所」みたいなことから、プライドの高い職工が「丁稚奉公ちゃうで!」と嫌がり「裁縫所」の通称をつけたのかも知れません。

そこで、防衛省が保管する旧軍文書を探したところ、廣田縫工所が「陸軍管理工場」だったことを示す秘密書類が複数ありました。工場は陸軍被服本廠大阪支廠の管理下にあり、軍服などを作っていました。文書に「工場全部」が陸軍管理とあり、事実上陸軍の一部でした。

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むろん、高京澤が陸軍管理工場で働いていたことは、なんら非難に値しません。私の祖父の軍服を一生懸命縫ってくれたと思うと、親しみさえ感じます。そうしたことで人を攻撃するのは、本来もっとも避けるべき行為です。
しかし、金正恩は日本人拉致監禁を含む「人道に対する罪」を現に行っており、また、我が国を核兵器で脅迫しています。あらゆる手段を尽くして止める必要があります。祖父が日本軍協力者であった事実は有効な圧力となるので、活用していくべきと思います。



Emperor Meiji uniform
たへがたき暑さにつけていたでおふ
人のうへこそ思ひやらるれ
(明治天皇御製・対露戦争で負傷した将兵に思いを寄せられて)


2児拉致事件で朝鮮総連最高幹部の逃げ得を許すな! 

7月3日に埼玉県議会の自民党議員団に招かれ、約30人の県議の先生方を前に、拉致問題についてプレゼンする機会をいただきました。いま鈴木正人県議、柿沼貴志県議、保谷武県議らを中心とする拉致問題プロジェクトチームが、解決のために何ができるか、じっくり時間をかけて熱い議論を交わしています。心温まる思いでした。

私のほうでは、埼玉県上福岡市(現・ふじみ野市)在住の子供2人が北朝鮮に拉致され母親が殺害された「渡辺秀子さん2児拉致事件」について説明しました。この事件では、朝鮮総連最高幹部3人が警視庁から書面で出頭を要請されたのに、拒否してそのままになっています。絶対に許されないことです。このまま終わらせるわけにはいきません。


話は1967年に始まります。朝鮮総連に所属する高大基(コデギ)工作員が、北海道のスナックで一般人の日本人女性・渡辺秀子さんと知り合い、二人は結婚しました。高工作員は北海道の自衛隊に対するスパイ活動を行っていたようです。同年に長女の高敬美さん、4年後には長男の高剛さんが生まれ、一家は埼玉県に転居します。当時の国籍法の定めで、子供は朝鮮籍になっています。

1971年になると、朝鮮総連の金炳植副議長が東京都品川区に工作拠点ユニバース・トレイディングを設立し、高工作員が責任者になります。同社は一般企業を装うため手の込んだ偽装工作をやっていて、金副議長の恩師である日本人S氏を名目上の社長にし、事情を知らない日本人を多数雇ってトランジスターラジオ等の輸出業務も行っていました。所属する工作員は10人程度で、日本人社員はその正体を知らされていません。

翌1972年に金副議長が失脚し、本国に召還されて二度と日本に来れなくなりました。すると高工作員にも召喚命令が出たようで、1973年に渡辺秀子さんに1200万円の小切手を渡して、「これで帯広に家を買って暮らしてほしい」と言い残して行方不明になります。
悩んだ秀子さんは帯広市の神社で占ってもらいます。すると「どこまでもついていきなさい」という結果が出たので、ユニバース社周辺で夫の行方を尋ね回ります。これに焦った工作員たちが本国に報告すると、母子を北朝鮮に連れてこいと命令されたので、目黒区のマンションに誘い込んで監禁しました。

「なぜそんなことが分かるのか?」ということですが、実は1979年に内部告発があったのと、88年によど号事件犯人が日本潜伏中に逮捕された事件にユニバース社関係者が関わっていたため、警察が徹底的に調べていて、複数の工作員から詳細な供述を得ているのです。

秀子さん親子が監禁されたとき、ユニバース社は洪寿恵(ホンスヘ・1977年に不正に帰化し木下陽子)という工作員が責任者になっていました。この女は特に凶悪で、独断で秀子さん殺害を決め、他の工作員とともに首を絞めるなどして殺し、遺体をマンション地下の駐車場から車で運んで東北地方で遺棄しました。洪が「橋の上から投げ捨てた」と語っていたのを聞いたという証言もあります。そして母親を殺された子供2人は、1974年6月に工作船で北朝鮮に連れ去られました。

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殺害されるとき、秀子さんはどれほど子供が心配だったろうと思わずにはいられません。拉致された当時7歳と3歳です。一人で生きていけるような年齢ではありません。頼みの父親は、すでに行方不明になっています。そして、子供たちは凶悪な工作員たちの手の中にあるのです。気も狂わんばかりだったのではないでしょうか?

その後1979年に警察が捜査をはじめると、洪寿恵は犯行に関わった夫とともに出国して逃亡しました。北朝鮮にいることが確認されています。


2007年4月になるとやっと、安倍総理が「私の内閣において拉致問題については徹底的に捜査する。これは基本的な方針だ」と指示し、強制捜査が行われます。警察庁は子供二人の拉致を認定し、洪寿恵を国際手配しました。さらに、警視庁は朝鮮総連議長ら最高幹部3人に、事情聴取のため書面で出頭を求めました。そのうち二人は、現在の議長と副議長です。読売新聞は4月25日夕刊の一面トップで「総連議長ら聴取へ 関連4か所捜索」と報じ、翌日の社説で「朝鮮総連幹部の聴取は必要だ」と主張しました。

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ところが朝鮮総連最高幹部は、事情聴取を拒否しました。読売新聞だけでなく、あの東京新聞までもが、社説で「積極的に捜査に協力した方がいい。でないと疑いは深まる」と主張したにも関わらず、拒絶したのです。そして信じられないような話ですが、通ってしまっています。

2人の子供が組織的に拉致され、母親は殺害されたのです。断られて済む話でしょうか? 被害者の人権はどうなるのでしょうか? よく「ゴメンで済むなら警察いらない」といいますが、「イヤだで済んだから法治国家じゃない」の状態なのです。

警察は何度でも何度でも、朝鮮総連の議長と副議長に事情聴取に応じよと求め続け、その事実をマスコミに発表すべきです。不当に拒否しているという事実を、全国民が知るべきです。そして万が一これ以上強制捜査できないのなら、朝鮮総連に破産申立てをするなどの方法で、政府は法治国家としての面目を保つべきです。

とにかく絶対に許せない。その一言に尽きます。



Emperor Meiji uniform
雨すぎてみどりにはれしそらみれば
日かげは夏になりにけるかな
(明治天皇御製)



プロフィール

加藤健

アジア調査機構代表

拉致被害者救出のための政策提言や、北朝鮮の外貨資金源潰し、制裁破り告発等を行う。
国営高麗航空の寄航差し止めなどの戦果を挙げる。

著書『朝鮮総連に破産申立てを! 血税1兆円以上が奪われた』(展転社)

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