★ 大量殺人犯を入国させていいのか? 

中国高官の生々しい殺人命令が国際社会に衝撃を与えました。

ウイグル人ジェノサイドに関する何万件もの内部資料が流出し、日米欧の14の報道機関が検証のうえ5月に一斉に報じたことは、皆様ご存じと思います。
特に注目を集めたのは、新疆ウイグル自治区の党委員会書記として弾圧を指揮した陳全国の発言記録。会議の席での発言を「録音に基づきまとめた」と書かれた文書が暴露されました。

陳全国は次のように命じています。
「特に海外からの帰国者は片っ端から捕らえるのだ。重大犯罪者の取り扱いに従い、まず手錠をかけ、覆面をかぶせろ」
「拘束した人間が数歩でも逃げれば射殺せよ。逃げる者を射殺するのに何の問題があるのか。とっくに許可している」

つまり、日本を含む海外に渡航したウイグル人は、それだけで殺人犯扱いしろということです。そして不当な扱いに疑問を感じたウイグル人が何歩か離れたら、躊躇なく撃ち殺せと命令しています。中国の行っていることは「ナチ並」といわれてきましたが、誇張でないことがよく分かります。

習近平の関与を示唆する発言もしています。
「(習近平)総書記が私を新疆に送り込んだ理由は、新疆を平定して共産党中央指導部に差し出させるためだ」
「習総書記を核心とする党中央を安心させよ」

すでに判明している事実や上記命令から、陳全国は大量殺人犯であるといえます。それこそ彼が言及した「重大犯罪者」そのものです。

中国共産党の論理など知ったことじゃありません。日本は他の自由主義諸国同様、民主主義、人権、法の支配といった基本的価値に基づいて物事を判断するのであって、肩書があろうがなかろうが、人殺しは人殺しです。
Re-education camp

これについて松原仁先生は6月2日、陳全国を入国拒否せよと求める質問主意書を政府に提出しました。
https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/208088.htm

入管法第5条は、「法務大臣において日本国の利益又は公安を害する行為を行うおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある」外国人は入国拒否せよと定めています。松原先生は、「陳全国は該当する。入国拒否の意思を明確にせよ」と岸田政権に迫りました。いまだ日本版マグニツキー法はおろか、中国人権「非難」決議さえ採択できない状況なので、入管法の解釈というかたちで日本国の意思を示すしかありません。

残念ながら6月14日に閣議決定された政府答弁書は、ガッカリする内容でした。岸田政権は、「個別具体の事情に即して判断する必要があるものと考えている」と当たり前のことをいって逃げました。

松原先生は質問三で日本版マグニツキー法について、「政府は検討しているというが、検討期間が長くなれば長くなるほど、結局、日本は人権意識が低い国なのではないかと国際社会から疑念を抱かれる」と質しました。
これに対して答弁書は、「引き続き検討してまいります」の岸田総理発言を引用して終わり。

岸田政権は大局が見えていないと思いました。日本はジェノサイドについて旗幟鮮明にしないと、欧米で「中国・ロシア・北朝鮮側の国」と誤解され、安全保障に重大な悪影響が生じる恐れがあります。各国外務省のエリートは日本のことを分かっていたとしても、国際世論といわれる曖昧なものは、英語圏主要メディアの視聴者・読者によって作られているのが現実です。専門家でもなんでもない大衆がなんとなく抱いた印象が、各国の政策に反映されます。言語・宗教・人種の違いや地理的な距離から欧米で必ずしもよく知られていない日本は、「我々は自由主義陣営の一員だ!」としつこいくらいアピールする必要があるのです。

また政府が、「犯人が強ければ殺人でも見て見ぬフリ」という誤ったメッセージを発信したままなら、見えないところでモラルハザードが進んでいく問題もあります。2008年に多くの日本の若者がチベット弾圧に抗議したとき、ペマ・ギャルポさんが「これの副次効果はイジメの減少でしょう」と発言したのを聞いて、報道の影響や社会全体の相関関係をよく理解している人だと感心しました。いま、逆の事態が生じようとしています。



Emperor Meiji uniform
いさをある人にさづくる盃は
とるたびごとにうれしかりけり
(明治天皇御製)