北朝鮮の核実験が迫るなか、日本の一部専門家が対北制裁に関する事実誤認を繰り返し主張していて、国策の誤りを招きかねないと危惧の念をいだいています。

当該専門家は衆議院拉致問題特別委員会で5月20日、「日本は世界一厳しい制裁をしている」と発言しました。事実に反しています。

アメリカで朝鮮総連は資産凍結対象です。大統領令13722号は北朝鮮政府・朝鮮労働党の資産凍結を定め、第9項(d)で「支配下の団体」も対象と明記しています。
またアメリカは第三国で北朝鮮船舶を差押え、競売にかけることまでしています。米政府公式放送局VOAが報じたとおりです。
FBIは北朝鮮に協力したスペイン人やシンガポール人等を国際指名手配しています。
北朝鮮制裁破り情報に最大500万ドル(6億数千万円)の報奨金を出すとHPで宣伝までしています。
https://rewardsforjustice.net/?north-korea=north-korea
5月にアメリカは、北朝鮮の高麗航空を支援したとしてロシアの銀行2行を制裁対象に指定しました。いっぽう日本では、朝鮮総連直営企業の中外旅行社が今も堂々と「高麗航空日本総代理店」と名乗っています。

アメリカの対北制裁の厳しさは、朝鮮総連を野放しにしている日本の比ではないのです。

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当該専門家は2016年9月に産経新聞紙上で、
「全ての貿易を止めているのはわが国だけだ」
「制裁を下ろす協議を行う段階だ」
と主張しましたが、その時点でアメリカとカナダも全ての対北朝鮮貿易を止めていました。あれから拉致問題は一ミリたりとも動いていません。

日本の対北制裁はまだまだやれることがあります。拉致被害者を一人でも多く取り返すため、制裁を下ろすのでなく、強化することで交渉カードを作るべきです。
たとえば3の制裁しかかけていなければ、2を解除すれば残りは1です。しかし10の制裁をかけていれば、大幅譲歩して4を解除してもまだ6が残ります。

日本が持つ交渉カードの量と質によって、帰国できる拉致被害者の数が決まる現実があります。核実験を千載一遇のチャンスととらえ、いまこそ仕込みを行うべきです。



家族会の横田拓也代表と横田哲也事務局次長は制裁検討を要請

いっぽう拉致被害者家族会代表の横田拓也さんは衆議院拉致特で同日、次のように発言しました。

「本当に今のままで、足りているんだろうかという議論はもっとしてほしいと思っているんです。金融制裁に抜け道、抜け穴はないのかですとか、いろんなことはもっと、私はできることが一杯あるのではないかなと今でも信じています」



家族会事務局次長の横田哲也さんは昨年6月5日に行われた「横田滋お父様の命日に捧げる会」(加藤官房長官リモート参加)で次のように発言しています。

「しかしながら、方法はないわけではない。北朝鮮が日本にアプローチせざるを得ないような状況を作ればいいわけなので、つまり、北朝鮮が嫌なことをやればいい。いま一度政府には、朝鮮総連の扱いが今のままでいいのか、何とかならないのか、政府広報で日本国民に再度啓発活動を行うとか(中略)いろいろなやり方があるはず。国家は結果を出してこそすべて」



打てる手は多数あります。なかでも交渉カードとして特に有効なのは次の二つです。

◆ 朝鮮総連への破産申立て
◆ 金正恩への日本独自制裁対象指定

破産手続は全債権者の同意で中止(破産法第218条の同意廃止)できますし、金正恩への独自制裁は官邸の判断ですぐに解除できます。政府にやる気さえあれば、「拉致被害者を返せば中止・解除してやる」という極めて有効な交渉カードが手に入り、結果として帰国が実現します。


また、次のような十分に実現可能な方策があります。

■ 対北朝鮮国連決議の提出国(現時点では共同提案国)に復帰し、金正恩個人の人道犯罪責任を追及
■ アメリカ金融制裁の厳格解釈による朝鮮総連幹部の銀行取引停止(長尾敬元内閣府政務官らの尽力で一部実現)
■ 再入国禁止対象の朝鮮総連関係者を拡大※
■ 安保理決議の厳格解釈による朝鮮大学校の認可取消※
■ 朝鮮総連所属の核・ミサイル関連研究者の排除※
■ 北朝鮮と取引する第三国の個人・団体への独自制裁(いわゆる二次制裁)※
■ 全ての対北朝鮮措置について厳格な法執行を徹底する※
■ 朝鮮総連幹部への資産凍結措置


※を付けた項目は、山谷えり子先生率いる自民党拉致問題対策本部が2017年4月10日付で官邸に提言した内容です。非常に優れた提言ですので、下に全文をコピーします。

拉致被害者救出のためやるべきことは多数あります。政府が口先だけの「全力で行動」「最優先課題」表明で誤魔化して面倒から逃げている現実は、本当にもどかしい限りです。




平成二十九年四月十日
自由民主党北朝鮮による拉致問題対策本部
拉致問題解決アクションプラン検討チーム

 北朝鮮は平成二十六年、わが国に対して拉致被害者等の再調査を約束したにもかかわらず、一度の調査結果報告を行うこともなく、極めて遺憾であるが、昨年には「特別調査委員会」の解体を一方的に宣言した。加えて、北朝鮮は、昨年一年間で二度の核実験及び二十三発の弾道ミサイルの発射を強行するなど、わが国や国際社会への挑発をエスカレートさせており、もはや、その所業は常軌を逸していると断じざるを得ない。

 政府は、党拉致問題対策本部が申し入れた十三項目の「対北朝鮮措置に関する要請」を踏まえ、わが国の制裁措置を強化したものの、現在に至るまでの間、拉致問題に具体的進展が見られない。このような状況を受け、本年、拉致被害者の「家族会」「救う会」は、「年内の帰国実現」「拉致・核・ミサイル問題の中で拉致問題を最優先で取り組むべき」「拉致問題解決を条件に制裁を緩和すべき」等の運動方針を決定した。

 党拉致問題対策本部は、その切実な想いに応えるべく、拉致被害者全員の帰国実現に残された時間は一刻の猶予もないとの強い危機感のもと、同本部に「拉致問題解決アクションプラン検討チーム」を設置し、まずは我々自身がとるべきアクションプランについて協議を重ね、以下の活動方針を決定した。

 ・ 議員外交を通じた諸外国・機関への協力要請(米国等の政府・議会及び国連への働きかけ。友好議員連盟の活動を通じた相手国への拉致問題の啓発のほか、国連安保理の決議履行要請及び新たな決議採択への協力要請)

 ・ 有識者との情報交換等を通じたわが国の制裁の履行状況に関する検証

 ・ 全国的な啓発活動の推進(地方議会における対策本部設置及び非難決議採択に向けた働きかけ。党本部並びに都道府県連における啓発活動の実施)

 さらには、拉致問題の解決が最優先の目的であることを再確認し、被害者の帰国が実現しない限り制裁を強化する原則は維持する一方、拉致問題の解決こそ北朝鮮自身が尊厳を回復する唯一の道と相手に理解させることなど、あらゆる施策を動員して一刻も早い拉致被害者全員の帰国を実現すべく、以下の新たな十三項目を取りまとめたところであり、政府において実現に向けた検討を直ちに開始することを求めるものである。



一、北朝鮮を渡航先とした再入国禁止の対象者を更に拡大し、朝鮮総連の中央常任委員会委員及び中央委員会委員、核やミサイルの技術者に加え、応用物理学、応用コンピューター科学、地理空間ナビゲーション、原子力工学、航空宇宙工学、航空工学、先端の材料科学、化学工学、機械工学、電気工学及び産業工学を含む関連分野等、国連安保理決議に例示された北朝鮮の機微な核活動及び核兵器運搬システムの開発に寄与し得る者も対象とすること。

二、北朝鮮幹部並びに企業など資産凍結対象者を拡大するとともに、北朝鮮と取引する第三国の金融機関や企業などを対象に、資産凍結を含む二次的制裁を行うこと。併せて、汎用的な民生品等が核開発・ミサイル関係機器に転用されている実態に鑑み、貨物検査特別措置法のリストに記載された品目以外についても押収できるよう所要の措置を講じること。

三、第三国を経由した北朝鮮との迂回輸出入や資産隠し等の規制逃れを防止すべく、引き続き厳格な法執行を行うこと。併せて、国際機関及び各国当局と連携して情報収集を強化し、海外における北朝鮮の貿易ネットワークの解明に努めるとともに、貿易管理体制が整っていない国に対する支援等を行うなど、制裁の実効性を高めるよう努めること。

四、北朝鮮と軍事・警察協力を行っているアフリカ・中東・東南アジア諸国に対し、北朝鮮との武器取引、武器のメンテナンス、軍・警察部隊に対する訓練の供与等を含めた国連安保理決議違反の協力を停止するよう働きかけるとともに、わが国が行い得るあらゆる支援策を検討すること。

五、整理回収機構による朝鮮総連に対する債権回収に引き続き万全の対策を講じること。加えて、朝鮮総連に係る資金の流れの解明に努めること。

六、朝鮮大学校を含め国内の教育研究機関に対し、北朝鮮の核・ミサイル開発に寄与し得る分野に関する北朝鮮国民への専門教育又は訓練を防止するとの国連安保理決議の義務を履行するために必要な措置を講じること。

七、国連安保理決議に違反して核開発・ミサイル実験を繰り返して世界の平和を脅かし、国家犯罪としての拉致を行う北朝鮮とその指導者を礼賛する朝鮮大学校や朝鮮学校等について、各種学校としての認可の妥当性の見直しを含め公的助成が行われないよう必要な措置を講じること。

八、政府認定に係る拉致被害者以外で、特定失踪者等拉致の疑いが排除できない事案についても、引き続きその真相究明に取り組むこと。

九、国連人権理事会や国連総会における北朝鮮人権状況決議の採択に引き続きイニシアティブを取り、安全保障理事会による国際刑事裁判所への付託を目指すこと。併せて、北朝鮮における人権に関する国連調査委員会(COI)の勧告に基づいて韓国ソウル市に設置されたフォローアップ拠点に関し、財政措置や専門家の派遣等を含めた権能強化を図り、国際社会における北朝鮮の人権問題の早期改善への圧力が更に高まるよう努めること。

十、米国が北朝鮮をテロ支援国家として再指定するにあたり、その理由の中に拉致問題を含む人権問題を含めるよう働きかけるとともに、拉致の疑いが濃厚である米国人のデビッド・スネドン氏を含む拉致問題解決に向けた連携を強化すること。

十一、北朝鮮向けの短波放送に加え、中波放送を含めた情報発信手段を充実すべく、財政措置や国際連携を含めた支援を強化すること。

十二、平和安全法制の成立を受け可能となった邦人保護の実効性を高めるべく、体制整備、訓練の充実を図るとともに、朝鮮半島有事等に備え、米国・韓国とより一層緊密な連携を図り、必要な情報の収集に全力を尽くし、拉致被害者を含む邦人の安全確保と保護に万全を期すために必要な措置を検討すること。

十三、全ての対北朝鮮措置について厳格な法執行を徹底するとともに、各国当局との規制対象等に係る情報共有及び連携を図り、制裁措置の有効性を確保すること。



Emperor Meiji uniform
むかしいまおもひあつめてかぞへけり
國に盡しし臣のいさをを
(明治天皇御製)