松原仁先生が今国会で、
「北朝鮮による日本人拉致は、実際には相当規模が大きいはずだ。政府は実際の規模を前提に救出に取り組め」
と求める質問主意書を提出しました。衆議院HPに掲載されています。

拉致の全体規模について、残念ながら多くの人が政府認定された十数人程度と誤解しています。これは完全に誤りです。政府認定の拉致事件は120%確実なものだけであり、それ以外に政府関係者が「これは間違いない」と思っている事案が結構あります。私は政府中枢にいた人から直接聞いています。

拉致に関心がある方は、政府認定拉致被害者以外に拉致の可能性がある「特定失踪者」が800人以上いることを知っています。たとえば東京都関連の認定被害者は4人(うち2人は母親が日本人で朝鮮籍)ですが、特定失踪者は46人いることが都庁HPに記されています。

こうした政府認定被害者・特定失踪者の八百数十人以外に、拉致と認識されていない拉致被害者が大勢いるのです。家族が拉致と思っていない被害者や、身寄りがなく誰も届け出ていない被害者は特定失踪者としてカウントされません。昭和53年に拉致されて平成14年に帰国した曽我ひとみさんは、北朝鮮が自ら認めて判明するまで特定失踪者でさえなかったわけです。

現在では代表的な特定失踪者と認識されている藤田進さんについて、弟の藤田隆司さんは、
「ずっと拉致なんて想像すらしていなかった。5人の拉致被害者が帰国してもまだ拉致と思わなかった。同じ川口市出身の田口八重子さんが拉致されていたと知って、はじめて可能性があるのかなと思った程度だった」
と語ります。北朝鮮にいる進さんの写真が脱北者によってもたらされて、はじめて分かったのです。むろん写真流出は極めて稀です。多くの家族は可能性すら考えたことがないのが現実です。

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拉致は、訓練された工作員によって国家ぐるみで行われてきたのですから、多くが「成功(認知されない)」しています。
警察等に認知されていない犯罪の件数を暗数といいます。それを含め、どのような犯罪が実際どのくらい発生しているかという実態を調べる「暗数調査」が、法務省の法務総合研究所によって行われています。令和元年版の犯罪白書によれば性的事件の被害申告率は14.3%で、実に85.7%が警察等に認知されていないことが分かっています。拉致は85.7%より高いことは間違いありません。
https://www.moj.go.jp/housouken/houso_houso34.html

拉致が認知される確率が極めて低いのは、ミスをしない限り証拠が残らないからです。騙して工作船に乗せるだけなのです。口実ならいくらでもあります。例えば、
「こんどの週末、クルーザーを借りてスチュワーデスと合コンをやるんだけど来ない? ただ人数の問題があるから、みんなには絶対内緒だよ。秘密は必ず守ってね」
「親戚が漁船を持っているんだけど、真鯛を釣りにいかない? いま入れ食い状態だよ。だけど船が小さくて君しか乗せられないから、みんなには絶対内緒ね」
いったん工作船に乗せてしまえば、自動小銃を持った複数の工作員が待機しているのですから、被害者が逃げ出すことは不可能です。

北朝鮮工作員の騙しの手口は巧妙です。昭和55年の辛光洙事件で犯人の工作員は、発覚を防ぐために身寄りがない日本人男性を狙うよう本国から命令されていました。原敕晁さんが対象に選定されると、工作員らは架空の貿易会社の社長や専務、常務の役を演じるなど巧妙な手口で騙し、宮崎県の海岸まで誘導しています。工作員が韓国で逮捕され犯行を自白していなければ、原さんは行方不明者届すら出ていなかったはずです。

そして世の中には行方不明になっても不自然でない人が大勢います。倒産寸前の会社社長が行方不明になっても、誰も不自然に思いません。北朝鮮による拉致など想像すらしないでしょう。職業や住居を転々とするライフスタイルの人が突然職場から姿を消しても、拉致が疑われることはまずありません。さらに多重債務などから逃れるため夜逃げして、住民票を移さず生活している人は大勢います。逃げている人はすでに行方不明なのです。行方不明者が行方不明になっても誰も分かりません。

警察庁生活安全局の統計をみると、政府認定拉致事件が集中した時期に、発見されないままの行方不明者が大勢いたことが分かります。昭和52年の行方不明者届受理数から所在確認数を引いた人数は13,545人、昭和53年は14,387人、昭和54年は13,240人です。行方不明になった年と所在確認の年が別々の場合もあるので、その年の正確な未発見者数ではありませんが、毎年1万数千人がいなくなったままだったことが分かります。

こうした事実を総合的に考えると、政府認定の17人の拉致被害者は氷山の一角であり、特定失踪者でさえ一部、それ以外に分かっていない拉致被害者が多数いることが分かります。総数は1000人以上の可能性も十分あります。

拉致被害者救出のための交渉は、正しい認識に基づいて行われる必要があります。政府がいい加減な妥協をして同胞を見殺しにしないよう、皆様にしっかり監視いただきたくお願いします。



Emperor Meiji uniform
おのづから國のまもりやおこたらむ
ことなき時にこころゆるまば
(明治天皇御製)