ここのところ松原仁先生が、衆議院外務委員会で3回連続して「金正恩を制裁対象にせよ」と林芳正外相に迫っています。3月30日の委員会では答弁から逃げる外相を、「質問に答えていない」と注意する場面もありました。

また書面でも、「金正恩委員長への経済制裁措置と政策の一貫性に関する質問主意書」を提出して政府に制裁を迫りました。下に質問文と、3月29日に閣議決定された政府答弁書を貼ります。

matsubarajin

北朝鮮による次の核実験後、アメリカは日韓英豪加EUに対して金正恩への独自制裁発動を要請すると予想しています。現状で安保理の制裁強化決議は採択不可能で、アメリカ独自制裁は二次制裁以外に強力な手段が残されていないからです。

これには前例があります。2016年にアメリカは金正恩個人を独自制裁対象に指定したあと、諸外国に同調を求めました。ロバート・キング北朝鮮人権担当特使は韓国紙・中央日報のインタビューで、「我々は他の国々もこうした措置を取ることを望む」と明確に述べています。日本語版記事が残っています。

恐らく日本はアメリカの要請を断れないでしょう。どうせやるなら日本が主体的に行い、国際社会をリードしたほうが得るものが多いことは明らかです。岸田総理の決断力が試されています。


★ 拉致被害者奪還の取引材料

金正恩への外為法に基づく制裁措置は、拉致被害者を取り返す上で強力なカードになります。国連制裁と異なり日本独自の判断で解除できるので、
「第一弾で30人返せば、羽田空港に着いたその日に解除してやる。そっちは勝利と宣伝できるだろう」
という取引材料になるのです。そして第二弾の帰国が遅れたら、一旦解除した制裁を再度かけられます。

拉致被害者を取り返すのに必要なのは、強力な取引材料です。特に「・・・を解除してやる」という取引材料は、実質的に身代金である巨額経済援助と異なり、再発助長やモラルハザード等の弊害を生まないので理想的です。

制裁強化局面でどれだけ「・・・を解除してやる」カードを作るかで、緊張緩和局面で何人の拉致被害者を取り返せるかが決まります。核実験後に一気に制裁を強化すべきです。


なお一部に、「日本は制裁をかけ尽くした。あとは解除するのみ」と主張する識者がいますが、甚だしい事実誤認です。たとえば下記方策が残っています。

・ 上記の金正恩制裁
・ 朝鮮総連への破産申立て
・ 総連幹部への金融制裁
・ 朝鮮大学校の認可取消
・ 北朝鮮協力者への二次制裁
・ 対北朝鮮国連決議の提出国に復帰して、非難文言に金正恩の個人名を入れる
・ 反北朝鮮団体への資金援助
・ 少年時代の金正恩が東京ディズニーランドで絶叫している写真をリークして恥をかかせる
・ 金正恩の外祖父が日本軍協力者である事実(解説)を拡散する 等々


そもそも拉致問題で日本はやるべきことをやっていないのに、諸外国に協力要請するのは信義にもとります。岸田政権は決意表明で誤魔化すことをやめて、行動すべきです。


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金正恩委員長への経済制裁措置と政策の一貫性に関する質問主意書

政府は今月、ロシア連邦のウラジーミル・プーチン大統領に対して、資産凍結等の措置を実施した。一方、拉致・核・ミサイル問題で我が国にロシア連邦以上の害を及ぼしている朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の金正恩国務委員長に対しては、資産凍結等の措置を講じていない。
北朝鮮は、金正恩国務委員長が二〇一二年一月に最高指導者の地位を継承して以来、この十年間に、確認されたものだけでも四回に及ぶ核実験を行い、我が国の近海上空を飛行し、我が国の排他的経済水域に落下したものを含め、九十五回以上の弾道ミサイル発射実験を行っている。こうした北朝鮮の軍事動向は、我が国の安全に対する重大かつ差し迫った脅威であり、国際社会の平和と安全を著しく損なうものとなっている。一方、この間、日本人拉致被害者の帰国は、誰一人として実現していない。
このような両国に対する経済制裁措置発動に関する一貫性を欠く我が国の姿勢は、国際社会において、いわゆるダブル・スタンダードであるとの誹りを免れないと危惧する。
我が国の同盟国であるアメリカ合衆国は、金正恩国務委員長を資産凍結措置の対象に指定している。また、朝鮮労働党及び北朝鮮政府を資産凍結措置の対象と定め、その範囲は北朝鮮政府支配下の団体に及ぶとしている。
経済制裁措置の発動にあたっては、政策の一貫性や、同盟国との協調が重要であると考えるが、政府の見解如何。また、北朝鮮の金正恩国務委員長に対して、未だ資産凍結等の措置を講じていない理由を説明されたい。
右質問する。





内閣衆質二〇八第三二号
令和四年三月二十九日

衆議院議員松原仁君提出金正恩委員長への経済制裁措置と政策の一貫性に関する質問に対する答弁書

前段のお尋ねについては、いわゆる経済制裁を発動する場合を含め、いかなる事態においていかなる対応をとるかは、当該事態の個別具体的な状況に照らし、いかなる対応が当該事態の改善及び解決につながるかという観点から、検討され、判断されるべき事項であると考えている。また、後段のお尋ねについては、今後の対応に支障を来すおそれがあることから、お答えすることは差し控えたい。





Emperor Meiji uniform
こと繁き世のまつりごと聴くほどに
春の日影も傾きにけり
(明治天皇御製)