★ 画期的答弁 

3月4日に開かれた衆議院外務委員会で政府は、松原仁先生の質問に対して、EUやイギリスに拠点を持つ邦銀は、日本国内を含めたグループ全体でEU・イギリスの対ロシア制裁を実施しなければならない旨答弁しました。EU・イギリスの制裁が実質的に国内でも適用されることを意味し、画期的だと思います。

日本の対露制裁対象は現在二百数十ですが、EUは九百以上の個人・団体を指定しています。三菱UFJ銀行と三井住友銀行、みずほ銀行は、日本国内でも九百以上のEU制裁対象者に対して資産凍結を行うことを意味します。

また、たとえば日本の制裁リストに載っていないモスクワ在住のロシア人(EU制裁対象者)が、制裁を回避しようと中国企業と円建てで取引しようとしても、送金を拒絶されるという効果も生じます。海外銀行間の円建て送金の大部分を邦銀が中継しているからです。海外送金の仕組みについては拙ブログ過去記事の解説をご覧ください。

松原先生は制裁実施にあたってスピードと規模が重要であると強調しました。今回引き出した答弁によって日本の対露制裁をEUレベルまで強化し、日本円による送金が制裁回避に悪用される事態を防ぐことができました。

putin
戦争犯罪容疑者(画像:クレムリン)

★ 長尾答弁

松原先生は、
「政府は、イギリスおよびEU欧州連合に拠点を持つわが国の金融機関グループに対し、イギリスおよび欧州連合の対ロシア金融制裁措置対象となった個人及び団体とは、海外拠点等が属する国の制裁にかかる法規制を踏まえた対応を指導するべきだと思うがいかがでしょうか」
と質問しました。

これに対して宗清皇一内閣府大臣政務官は、
「金融庁におきましては、『マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン』に基づきまして、海外拠点を有する我が国の金融機関グループに対しまして、海外拠点が属する国の制裁に係る法規制が我が国よりも厳格である場合も勘案しつつ、グループとして一貫したマネロン・テロ資金供与対策にかかる方針等を策定し、この方針等に基づきまして顧客の受入れ、顧客の管理等についてグループ全体で整合的な形で実施することを指導しているところでございます。これにつきましては、松原先生が令和二年に提出されました『林鄭月娥香港行政長官への米国金融制裁適用に関する質問』に対しまして、政府として回答した方針から、特段変更したものではございません。金融庁といたしましては、ロシアに対する制裁の実効性を確保するため、G7をはじめとする国際社会と緊密に連携して対応してまいります」
と答弁しました。

政務官が言及した松原先生の質問主意書は下記になります。香港メディアが「日本国内の林鄭月娥長官の銀行口座が凍結へ」と大きく報道しました。
要は、アメリカに拠点を持つ邦銀は、林鄭長官が制裁対象になっていない日本国内であっても、アメリカの法令に基づく林鄭長官に対する制裁を実施せよ、という答弁です。

元々は長尾敬内閣府大臣政務官(当時)が2019年、松原先生の質問主意書に対して、アメリカに拠点を持つ邦銀は国内でもアメリカの対北朝鮮制裁を実施せよとの答弁を決裁したことから始まっています。下記になります。


★ 情報収集能力の差

EUの対露制裁対象者は現在862個人と53団体と下記HPに書かれています。今後もどんどん追加されていくはずです。

それに対して日本の制裁対象は二百数十に過ぎません。
https://www.mof.go.jp/policy/international_policy/gaitame_kawase/gaitame/economic_sanctions/list.html

EUは全加盟国の情報機関を活用して制裁対象を選定できます。その中には冷戦時代にKGBの先兵的存在だった機関も含まれるわけで、この地域の情報収集能力で日本は遠く及びません。日本の制裁対象指定はどうしても遅れを取ってしまい、自由主義圏で信頼を失う事態となってしまいます。しかしスイスのようにEU対露制裁を法律として全面的に取り入れるのは、独立国としていかがなものかということになります。

その点、EUに拠点を持つ邦銀(海外取引で圧倒的シェア)にEU制裁を全世界で遵守するよう指導するのは、独立国としてのメンツを失わず、かつ実効性を担保して日本の信用も失わない、現実的で優れた解だと思います。

松原先生が主張したように、対露制裁は返り血も覚悟してスピード・規模重視の取組みが求められています。それが中国に対して、「尖閣に手を出したらどうなるか分かっているだろうな」という警告になります。これは日本を守る戦いでもあります。今後も各国と連携して力強く推し進めるべきです。



Emperor Meiji uniform
思ふことつらぬかむ世はいつならむ
射る矢のごとくすぐる月日に
(明治天皇御製)