このたび情報誌『インテリジェンス・レポート』に寄稿しました。冒頭部分のみご紹介します。

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「金正恩政権転覆に向けた具体策」

体制転換推進が唯一の解決策


拉致問題は一向に進展しないなか、北朝鮮の核・ミサイルによる脅威は増す一方である。核弾頭小型化とミサイル性能向上は日々進み、その大量破壊兵器を、合理的思考能力に欠け、経験不足で、世界で最も予測不可能な指導者といわれる金正恩が手にしている。核の脅威を取り除くことは我が国の喫緊の課題であり、唯一現実的な解決策として体制転換を推進すべきだ。

20123月と8月に著者らが、国連調査委員会(COI)設立のためのロビー活動で安倍総理(当時は野党議員)に面会したとき、総理は「金正日はああ見えて慎重な男だった。アメリカが絶対に許さない一線をよく心得ていて、その手前までしか挑発行為を行わなかった。決して一線を越えなかった。しかし息子の金正恩のことは分からない」と述べていた。

金正恩は父親と違って、越えてはならない一線を理解していない。本年915日に朝鮮中央通信は「すべての核施設」が正常稼働を始めたと宣言し、「米国と敵対勢力が敵視政策にしがみつき続けるなら、いつでも核の雷鳴で答える万端の準備ができている」と表明した。これについてCNNは同日、「北朝鮮がアメリカに『いつでも』核兵器を使用する準備ができていると警告」というタイトルで報じた。

イギリスに駐在する玄鶴峰(ヒョン・ハクボン)駐英大使が930日にチャタムハウス(王立国際問題研究所)で行った講演は、さらに直接的だった。玄大使は、「もし戦争が起きれば、その被害と破壊力は1950年代とまったく異なるものとなり、戦争の範囲は朝鮮半島にとどまらない。広島に落とされた原子力爆弾の10倍の破壊力を持つ核弾頭が、太平洋を越えて飛んでいく」と脅迫した。

これらの脅迫は、一線を越えているだけでなく、合理性がない。北朝鮮の目指すところは、アメリカから核保有国として承認され、独裁体制の保障を得たあと、投資を呼び込み経済を発展させることである。ところが報道に接したアメリカ人は、分かりやすく書けば「お前の家族をブッ殺すぞ!」と脅迫されたと受け止める。アメリカの国民性として、直接的な脅しには屈しない。さらに1938年のミュンヘン会談でイギリスのチェンバレン首相がとった宥和政策が、ヒトラーを幇助する結果を生んだとの共通認識がある。アメリカに対する一線を越えた脅迫が逆効果になることは、中学生レベルの思考力で十分理解できることだ。

核攻撃の脅迫は国際社会の拒絶反応をもたらし、北朝鮮が猛反発する国連人権状況決議の賛成票を増やす結果も生んでいる。現在著者は仲間とともに世界190ヵ国のニューヨーク国連代表部に電子メールを送り、CNN記事を引用して決議賛同を訴えているが、敵の自滅発言はありがたい。逆に北朝鮮の側から見るならば、実に愚かである。

つまり今現在、小学生レベルの思考力しか持たない者が、日本人を数十万人殺害する能力を持ち、かつ実行する可能性がある。危険は許容レベルを超えており、直ちに除去する必要がある。父親の金正日が、恐らくは日本人の犯行に見せかける目的で大韓航空機事件を起こし乗員乗客115人を殺害したことを考えれば、金正恩が「韓国の過激派」を装った核テロを日本に仕掛ける可能性は十分にある。朝鮮労働党機関紙『労働新聞』は2013317日に、「侵略者の本拠地に対する核先制攻撃の権利を行使することになる。日本も決して例外ではない」とする記事を掲載し、日本が核攻撃の対象であると宣言している。

金正恩政権が自主的に核廃棄することはありえないので、実現するには体制転換か、崩壊寸前まで追い込み金正恩の生命と引き換えにするほかない。20089月から2年間平壌に駐在したイギリスのピーター・ヒューズ元駐北朝鮮大使は、北朝鮮高官が「カダフィ氏が核を放棄したから、リビアは北大西洋条約機構(NATO)の空爆を受けた」と語ったと記者会見で述べている。金正恩は、カダフィ大佐が下水排水口から引きずり出されて命乞いする映像も、血まみれの死体となった映像も、深い感慨とともに見ているはずである。通常の外交交渉による核廃棄は幻想であり、過去そうであったように時間稼ぎを許すだけだ。日本にとっても金正恩にとっても、核は存亡に関わる問題である。そしてゼロサムゲームである。

幸い金正恩政権は弱っている。韓国の国家情報院は本年1020日に、国会情報委員会の国政監査で、北朝鮮の海外駐在官出身の亡命者は13年の8人、14年の18人から、今年(1月から10月)は20人と徐々に増加していると報告した。また金日成時代の体制の強さを100とすると、金正日時代が50から70、金正恩時代は10程度と評価した。

著者は外貨資金源根絶によって体制崩壊に寄与すべく、北朝鮮フロント企業を告発したり、海外の投資予定企業に警告状を送って手を引かせたりしてきた。本誌ではこれまで6回にわたって報告してきたが、今回は摘発事例をもとに工作員の偽装用旅券の問題を取り上げたい。また外貨収入の柱となったロシアへの労働者派遣事業を解説するとともに、根絶にむけた取り組みを紹介したい。最後に、冒頭で紹介したロビー活動を受けて、安倍政権が歴史に残る業績を上げたことを報告し、日本が実はたいへんな外交力を持っていることを明らかにしたい。

 

(以下具体的に)